名詩鑑賞
萬葉集
長谷川 泉
pp.34-35
発行日 1950年6月15日
Published Date 1950/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906663
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日本の歌を分類すると片歌,旋頭歌,短歌,長歌,今樣歌,連歌,俳諧,俳句,民謠.新體詩などになる。わが國の代表的な古典である萬葉集には後世おとろえて姿を消した長歌や旋頭歌が收められている。こゝに示すのは長歌である。作者は明らかでない。おそらくは山城へ行商にゆく大和の族商人の妻の作ででもあろうか。
一首の意味は次の如くである。嶺つゞきの山城へゆく道をよその夫は馬に乘つてゆくのに,自分の夫馬がないので徒歩でゆくのを見ると,そのたびごとに悲しくて泣けてくる。そのことを考えると本當に胸がいたい。ねえわが夫よ,こゝに,母のかたみとして,大切に持つている美し澄んだ鏡と,薄く上等な蜻蛉領巾があります。この二つを持つていつて馬を買つて來なさいよ。
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