発行日 1947年10月15日
Published Date 1947/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906242
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諸物價が上る,生活費が上る,醫療費がグンと上る,然し私共勤勞階級の收入はそれに平行して上らない。健康で働いてゐる間は何とか生活し得るが,一度家庭員に病人が生ずると,忽ち生活に破綻を來して動きがとれなくなつてしまふ。社會保險はかうした私共庶民階級の生活安定を計るための公の共濟施設として發達して來たのであるが,今日果してどれだけその目的を達してゐるであらうか,開業醫はこれを嫌ひ,官公立病院にても一點單價が低いために思ふ樣な投藥も出來ないでゐる。更に惡いことには保險を利用する被保險者が多ければ多い程その組合は早く潰れるムジュンがある。こんなことは私如き淺識の者が今更云々するまでもなくその道の人達が種々研究しての結果に違ひないが此の不合理をまのあたりみるにつけ何時もどうにかならないものかと考へる。
私の現在してゐる村にはベツト50ばかりの村立の綜合病院がある。戰時中の資材不足を克服して昭和20年4月開院した病院で私は開院以來此處に職を奉じてゐるのであるが,此の病院では保險使用者が患者總數の7,8割を占めてゐる。あの病院へ行けば保險證を持つて行つても差別待遇しないと云ふことが短期間に村内は勿論,近村にまで知れ渡つたとみえて今まで手箱や机の奧深く藏つて置つて一度も使用したことの無い保險證をみんなが使用する樣になつた。入院患者の全部が保險患者になつたこともある。病院の經營が成り立つならそれが理想的だと思ふがそれでは成り立つ筈がない。
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