Medical Scope
妊婦のトキソプラズマ感染症の診断
島田 信宏
1
1北里大学病院産科
pp.202
発行日 1980年3月25日
Published Date 1980/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205686
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妊婦がトキソプラズマ原虫(Toxoplasma Gondii)に感染すると,この虫体は胎児にも感染し,胎児に先天性トキソプラズマ症を発症させ,脳炎や水脳症などをつくってしまうことは,もう,皆さんもよく御存知のことでしょう。私たち産科管理者は,妊婦にトキソプラズマが感染していないかどうかを診断しなくてはなりませんが,実は,この診断の根拠となる検査法に多くの問題点があるのが指摘されていました。一度,私たちの体内に入ったトキソプラズマ原虫は,最初は血液中を泳ぎまわっていますが,やがて,いろいろの臓器のなかに,シストという形になって入り込んでしまいます。このシストという形は,何匹もの虫体が厚いカラにとじ込められたような塊りとなったもので,一度,こうなると容易に,このカラを破って外へとび出ることはないのです。したがって,妊娠中にはじめてトキソプラズマに感染したような場合には,原虫はシストを作る前なので,胎児へ感染することも考えられますが,妊娠する前に感染したような古い感染では,もう,原虫はシストを形成してしまっているので,胎児への感染はほとんどないことになります。また,すでにトキソプラズマに対する抗体をたくさんもっている人は,たとえ妊娠中に再感染しても,原虫は血液中の抗体に殺されてしまい,胎児へ感染するまで生きていられなくなります。
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