社会の動向
文豪と子供達
長谷川 泉
pp.40-41
発行日 1957年5月1日
Published Date 1957/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201268
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森鷗外は夏目漱石と並ぶ,近代文学の文豪である.近代文学というわくをはずして,広く日本文学の系譜のなかで考えても,おそらく量質共に後世にまで残るであろう.
文豪鷗外には4人の子供たちがあった,尤も生れて半年余で死んだ不律を加えれば5人の子供たちということになる.その他にも表だつて数えられない子供たちがいたかどうか——それは鷗外の伝記研究者たちの話題に過ぎないが,どうもなかつたようである.御承知のように,鷗外が遊学から帰国したのち,そのあとを追つてドイツからエリスという女性がやつて来たこともある.エリスはていよく追いかえされることになつたのだが,そのエリスの面影の一端は留学土産ともいうべき「舞姫」の中に,同名のエリスという名まえで描き出されている.また作中のエリスを造型する材料となつたと思われる記述は,鷗外の「独逸日記」の中に,少々は見出されないわけではない.だがドイツにおいて鷗外がどのような青春生活を送つたかは知るよしもない.
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