講座
妊娠悪阻
水野 潤二
1
1名古屋市立大学
pp.19-24
発行日 1957年3月1日
Published Date 1957/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201224
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妊娠悪阻(Hyperemesis Gravidarum)うは,悪性妊娠嘔吐とも言われる様に,妊娠嘔吐(Emesis Gravidarum)即ち「つわり」が高度且つ長期となり,一般状態悪化し,栄養を害するに到つたものをいう.小畑氏によれば,我国では戦前全妊娠の0.3%前後に見られたが,戦時中激減して0.04%程度となり,戦後も0.05-0.07%程度に留つている.殊に最近は,妊娠中絶の激増によつて本症の重症なものを見ることは極めて稀である.しかし如何に人口抑制の時代とは言つても,生児を望まぬ人はなく,生児を制限するとなると,産むと決めた妊娠に対しては妊娠はもとより周囲の人も大きな関心を持つこととなるから,本症の重大性は決して減じた訳ではなく,又産科学的に見ても初期妊娠中毒症の代表的なものとして極めて重大なものである.以下一通り本症について説明し,特に治療と看護について述べて見る.
まず原因についてであるが,本症の根本原因は他の妊娠中毒症と同様,妊娠によつて生じる一種の毒素による中毒と見なされている.ところでその毒素の本体については,特に我が国で真柄,賀来,九鳥等の諸家によつて研究せられた結果,胎盤の絨毛組織からの或る物質であるとせられ,胎盤原因説が認められている.
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