- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
新型コロナウイルスSARS-Cov-2による感染症(COVID-19)は,2019年に発生して以来,全世界に広まりいわゆるパンデミックとなった.世界保健機関(World Health Organization:WHO)への報告に基づくと,2023年3月6日時点で,全世界で758,390,564例,死者は6,859,093人を記録している1).2022年以降も,本邦でのいわゆるオミクロン株による感染者の増大があり,変異株による感染者数の増減を繰り返している.
COVID-19の影響は,急性期のみならず感染後の長期にわたり,回復したとされた患者のなかに,さまざまな症状が残存する可能性が指摘されている.特に,感染初期から慢性期まで,急性期の重症度にかかわらずさまざまな神経症状を来すことが知られており,特に嗅覚・味覚障害が有名である.報告によってその頻度は異なるものの,それぞれ53%および44%に至るとする報告がある2).神経症状に限っても,頭痛がCOVID-19の患者ではよくみられ,それ以外にも筋肉痛,めまいなどのさまざまな神経症状が知られている.
しかし,このようなCOVID-19の長期にわたる一連の臨床症状は,現時点でも完全に理解されているとは言いがたい.例えば,その呼称でもpost-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)や,Long COVIDなどの名称で知られている3).これはその定義の違いに由来していることもあり,混乱に拍車をかけている.すなわち,Long COVIDは,その症状の有無ないしは程度にかかわらず4週間以上症状が継続するか,それ以降に新たに症状が出現した状態と広く定義されている4〜6).WHOは,類似の病態をpost COVID-19 conditionとして定義している7).本邦では,WHOの定義を参考に「罹患後症状」と表現されることもある8).本稿では仮に「Long COVID」を用いることとし,俯瞰する.
現時点では,診断・検査・治療法が確立しておらず,個々の患者の症状を評価し,各患者に合わせた対応が求められていると言える.本邦でもこれらの病態を長期的に検討する体制の構築の必要性につき,認識されつつあるところである9〜11).これに先立ち,国立精神・神経医療研究センター総合内科では2021年6月以降,われわれによってコロナ後遺症外来(以下,当外来)が開設された.その後半年で90人のLong COVIDの患者が受診し,その概要を報告した11).この報告以降,現在まで受診のペースは変わらず,2022年末までは1年間半で330人を超えるLong COVIDの患者が受診し,2023年に入ってもそのペースが落ちた印象はない.
本邦における本病態への理解のニーズは高く,また,筋力低下を訴える患者もいることから,リハビリテーションが治療法として選択肢に挙がることもしばしばある.そのため,本病態への広い理解が必須であり,当外来での経験も踏まえ,Long COVIDの概要を解説する.
Copyright © 2023, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.