特集 先端技術と臨床検査
Ⅹ微生物
1微生物同定検査法の新しい試み—2化学分類学への応用
矢野 郁也
1
Ikuya YANO
1
1大阪市立大学医学部細菌学教室
pp.1421-1427
発行日 1986年11月1日
Published Date 1986/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542913165
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●はじめに
微生物の分類・同定に関する研究は,すでに19世紀後半のKochやPasteurをはじめとする多くの先駆者たちによって発展を遂げてきた.その流れを振り返ってみると,分類学の初期は明らかに比較分類学から始まり,しだいに系統発生の概念が取り入れられ,やがて数値分類学が芽生えて発展し,現在に至っている.もちろん,微生物分類学の初期の段階では,17世紀の初めにオランダのLeeuwenhoekによって発明された顕微鏡の利用に負うところが大きく,したがって微生物の形態観察は分類や同定の極めて重要な指標であった.けれどもPasteurをはじめとする微生物生理学者たちの研究の成果は,種々の発酵形式を明らかにし,しだいに生命現象が化学的に解明され,数多くの酵素蛋白の機能が明らかにされるに及んで,今世紀半ばには微生物化学もしくは酵素化学の全盛時代を迎えるに至った.
このような微生物の生化学的性質が,細菌分類や同定の指標としていち早く取り入れられ,現在の微生物数値分類学の最も中心的な存在となっているのは,周知のとおりである.しかし,微生物学の広い分野が発展するに伴い,病原菌・非病原菌を問わず新しい微生物が数多く分離されるようになり,また分類学の体系も変化して,よりいっそう厳密な種の定義が必要とされるようになると,従来の方法では不十分なことがわかってきた.
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