高級技術講義
酵素化学の臨床検査への応用
織田 敏次
1
1東京大学田坂内科教室
pp.333-338
発行日 1957年9月15日
Published Date 1957/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905378
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生体のあらゆる現象,たとえば成長,同化,異化のすべてが酵素の触媒反応によつてはじめて円滑におこなわれていることは,いまさら多言を要しない。化学量論的な反応(Stoichiometric)と対比して考えられるわけである。
臨床検査の目的で酵素がはじめてとりあげられたのは,ヂアスターゼが最初と思う。Wohlge-muth (1908)の方法といわれて急性膵炎の診断に今日でも欠くことのできない検査である。このほかには胃液のペプシン,膵液のリパーゼなどがそれぞれの分泌機能を知るために検査されてきたにすぎなかつたが,いずれも細胞外に分泌される酵素であることに気づかれることと思う。しかし今日の酵素化学が着々と威果をあげつつあるものは,細胞構成因子としての酵素である。大きな蛋白分子であるProsthetic groupとCo-factorとからなり,細胞の核,ミトコンドア,ミクロソームあるいは上清部分の主要素をしめる細胞の構造そのものにほかならない。Pasteur (1855)の醗酵の実験から,Buchn.er (1897)がアルコール醗酵に必要な圧搾汁を酵母より取出してZymaseと名づけたのが細胞酵素発見の端緒である。さきほどの細胞外分泌酵素である消化液についてはさらに古い。ヂアスターゼの存在を予測したのがDubrunfant(1830),これを分離したのがPayen,Persoz(1832),ペプシンはSchwann(1836)によつてすでに発見されているのであるから,臨床医学にもやはりこの順序を追つて導入されたとすれば当然うなづけてよい。
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