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1906年に田原淳は哺乳動物心臓の肉眼観察と連続切片の光学顕微鏡観察によって,心房と心室を連結する房室連結筋束を発見した.彼はこの特殊心筋が心房で起こった電気刺激(興奮)を心房から心室へ伝える系であると考え,“刺激伝導系”と名付けた.この報告に刺激されて,イギリスの解剖学者A. Keithは房室連結筋束(Tawara system)の存在を確認した.さらに,同じLondon Hospital Medical Collegeの生理学者M. W. Flackの協力を得て,1907年に右心房の上大静脈入口部に房室結節と同様な形態をもつ特殊心筋細胞の集団を発見した.これが“洞房結節”(Keith-Flackの結節)である.洞房結節は心臓の自律的,律動的運動の始まりであることから,心臓拍動の“歩調とり”pacemakerと呼ばれる.洞房結節に発する興奮のリズムが心房筋に伝わって田原結節に至り,田原の見いだした経路を経て心室筋の収縮となる.
洞房結節の走査電子顕微鏡観察によると,結節細胞は心房筋細胞よりも小型で,紡錘形を呈している.細胞群は分界陵に対して平行に走り,神経線維も豊富に分布している([1]).透過電子顕微鏡は結節細胞が筋原線維,ミトコンドリア,グリコーゲンを有し([2]),これらが自動能をもつゆえんである.洞房結節内には交感性(有芯小胞)と副交感性(無芯小胞)神経終末が多数分布し([2]),心拍動数に強く影響している.結節細胞は心房筋細胞と連結している.洞房結節で発生した興奮は右心房からBachmann筋束を経て左心房に伝わる.田原の原著によると,心房筋細胞は房室結節細胞とも連なっていた([3]).
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