特集 新時代のワクチン戦略について考える
巻頭言
ワクチンのもつ医学的・社会的意義
中山 哲夫
1
Tetsuo NAKAYAMA
1
1北里生命科学研究所ウイルス感染制御
pp.1210-1212
発行日 2010年10月30日
Published Date 2010/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102425
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
感染症は古く紀元前の時代から人々を苦しめており,エジプトのピラミッドから発掘されたミイラのラムセスV世には天然痘の跡が残っており天然痘により死亡したと考えられる.また,こうした古代遺跡から発掘された石版には右脚の萎縮した僧侶が描かれており,ポリオの麻痺と診断される.本邦も,仏教伝来とともに天然痘が伝播し人の交流により文化,文明,新たな知識とともに感染症が流入してきた.奈良の大仏の建立は天然痘の流行を鎮静化する祈願をこめて建立されたものであり,古い記載のなかで麻疹は937年に初めて日本で流行したことが残っている.江戸時代でも鎖国政策をとってはいたものの中国,オランダに門戸は開かれており天然痘,コレラ,麻疹等の感染症が流行を繰り返していた.AIDS,SARS,West Nile熱のように新たにヒトの感染症として登場した新興感染症は感染症の重要性を認識させられた.新たに出現した感染症だけでなく,古くから流行を繰り返してきた感染症もいまだに撲滅には至っていない.
多くの微生物,ウイルス,真菌などの病原微生物が発見されたのは19世紀になってからで,最近になってやっと感染症の発症病態が分子生物学的に解明され始めた.感染症との闘いでヒトが勝利し撲滅できた疾患は天然痘だけである.天然痘の予防に対して有望な手段として種痘法がジェンナーにより体系化され,生ワクチンの始まりとされている.一方,不活化ワクチンはパスツールにより狂犬病のワクチンが開発された.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.