特別寄稿
病院長からみた安全管理—医事紛争からの教訓
長野 展久
1
1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科司法医学・東京海上メディカルサービス
pp.493-497
発行日 2002年6月1日
Published Date 2002/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541903553
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医療事故あるいは医事紛争へと発展する事例は,年々増加の一途をたどり,10年前には年間300件程度であった医療事故民事訴訟新規受付件数が,2000年には767件と2倍以上に増加している.そして新聞やテレビからは,大学附属病院や国公立病院で発生した重大な医療事故が連日のように報道され,記者会見で深々と頭を下げている病院長の姿を見るのも珍しいことではなくなった.そして最近の判決では,医療者側の責任が厳しく問われるようになり,有責率(過失と認定される割合)は70%近くにも及ぶという.その背景因子として,医療の高度化,医療に対する患者側の過度の期待,患者の権利意識の向上,病院側の対応のまずさ,マスコミ報道の影響などが指摘されているが,根本的な問題は,社会全体が医療事故を通じて「医療の質」に疑問を投げかけていることにあると思われる.
このような声に対して,われわれ医療従事者も十分に応えていかなければならないが,昨今の報道をみても明らかなとおり,決して満足のいく状況とはいえない.特に病院全体を統括する病院長の立場では,「患者の安全と安心の確保」と「病院の経営上の対策」として,「リスクマネジメント」の体系的な仕組みを構築するのは最重要課題といえるが,いまだ解決されるべき問題が山積みになっていると思われる.
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