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■はじめに:問題の所在と本稿の目的
新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)の蔓延に伴い医療機関の経営が悪化している.このため,医療関係者の間では,補助金等の財政支援のほか診療報酬の特例的対応に対する期待が高まっている.こうしたなかで,政府は2020年12月半ば,①小児の外来診療について感染予防策を講じている場合,2020年12月15日から加算を認める特例(以下,小児外来診療特例)を設けるとともに,②2021年4月から,感染予防策を講じている医療機関について初・再診料や入院料等の加算を認める特例(以下,一般診療特例)を設けることを決めた.表はその決定過程および内容をまとめたものである.
コロナに関する診療報酬の特例的対応はこれが初めてではない.2020年4月8日,コロナ感染の疑いのある患者の外来診療に関する院内トリアージ実施科の算定措置,コロナ感染の入院患者の救急医療管理加算の算定措置が講じられたのを皮切りに,数度にわたり特例的対応が図られてきた.しかし,今般の小児外来診療特例および一般診療特例(以下,今般の特例)は,これまでの診療報酬の特例とは異なる点が2つある.1つは,従来の特例はコロナの感染(感染疑いを含む)との関係が直接的であったのに対し,今般の特例は感染予防策が講じられていれば算定できることである.端的に言えば,実質的には医療機関の減収補塡だという批判がある.もう1つは,今般の特例は,中央社会保険医療協議会(以下,中医協)に諮る前にその内容が閣僚折衝により決定されたことである.つまり,中医協の審議権がないがしろにされたという批判がある.
もっとも,こうした批判に対しては,医療現場では実際に感染予防の出費がかさんでいるという反論があろう.また,そもそも医療機関の経営が危機に瀕しているなかで,診療報酬により減収補塡してなぜいけないのか,政治主導で救済策を講じるのは当然ではないか,といった反論もあると思われる.
両者の見解の対立は,単に立場や価値観の違いに帰される問題ではなく,診療報酬の法的性格や中医協の存在意義に関わる本質的な問題である.このため,本稿では,今般の特例について法的な観点から評価・検討を行いたい.なお,コロナに関する診療報酬の特例としては,施設基準など算定要件の特例(例:コロナ患者の受入れにより施設基準を満たせなくなった場合の特例)もあるが,本稿は点数設定に関わる特例に限定して論じる.
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