扉
患者とのCommunication
最上 平太郎
1
1大阪大学脳神経外科
pp.115
発行日 1987年2月10日
Published Date 1987/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436202355
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私が医師になって外科に入局した頃,先輩からまず言われたことは医師以外の人のいる所では言葉づかいに十分気をつけるようにということであった.私ども医師は同僚の間で何の気なしに喋っている医療の話も医師以外の人が聞くと極めてショッキングに聞えることが多い.生命にかかわる手術中の出来事など平然と話す人がいるが,患者にとっては怖い話である.局所麻酔での手術中,"そんなへまするから切っちまうじゃないか"と大声で助手を叱ったため,患者が心配そうに"先生もうだめなんですか"と言われて困ったことがある.
患者にはドイツ語が判らないつもりで"Krebs"なぞ決して言わないことである.何度も医師に受診した人など医師の使うドイツ語ぐらい判る人も少なくない.いわんや英語などはなおさらである.一般に患者や家族は非常に神経質になっているので些細なことでも過度の反応を示しやすく,ただ一度の失言で信用を失うことすらある.したがって患者や家族との対話は慎重を要するが,近年一般に医学常識も向上していると思われ,特定の事については医師よりよく知っている患者もある.ただ変に誤った常識をつけてもらうと厄介である.新聞や雑誌の切り抜きを示して,こんなことも知らないのかとばかり患者から一くさり講釈をきくことも時にある.近頃はCT検査を強要してきかない人が少なくなく,こんな方は自分で自分の病気を診断しており,医師の診察よりもむしろ器械の方を信用する傾向がある.
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