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本号では千葉大学の佐伯教授より「献体を使った脳神経外科手術トレーニング─期待するものと問題点」と題して扉に,また名古屋大学の梶田講師より「脳腫瘍の画像誘導手術の現状と今後の展望」と題して連載“悪性脳腫瘍治療の今とこれから”に原稿を頂いた.いずれも科学技術と生命科学の進歩に基づいた次世代型脳神経外科手術に関するものである.脳神経外科手術は肉眼的直視下手術から顕微鏡直視下手術に移行し,手術の安全性と質(確実性)は格段に向上した.さらに現在,各種の手術デバイスの開発が進み,非直視下の画像誘導手術である内視鏡手術,血管内手術,定位放射線手術あるいは術中CTや術中MRIを用いたナビゲーション手術が急速に導入されつつある.一方では,こうした新しい手術機器を用いた新しい手術法が一般化する上で,デバイス側および術者の技術技能が必ずしも定まっておらず,小さなミスから大きな医療事故が多発してきた.そこで術前に献体を用いたハンズオンセミナー等でこうした手術のトレーニングをしたり,手術のシミュレーションをしたりすることが必須であり,一方学会では安定した技術を持った人のみ手術を許可する専門医制度の導入も検討する必要がある.また,現在のアナログ手術から将来はデジタル手術に移行し手術の標準化を図ることも今後の課題である.すなわちロボット技術を導入し,画像の共有に基づいた遠隔手術支援システムの開発である.梶田講師が記載しているように,われわれ名古屋大学と関連病院の名古屋セントラル病院では術中MRIを用いた画像誘導手術を昨年より開始し,すでに両病院をあわせて180例以上の症例を経験している.手術の安全性および確実性においてこれまでと明確な差が明らかになってきた.さらに最近,両手術室,そして工学部ならびに保健学部を光ファイバーでつなぎ,術前,術中のMRI画像データを両施設に転送し,3D画像を構築したり,最近では仮想的3D内視鏡画像を構築し手術室に転送するシステム(われわれはこのシステムをブレインシアターと呼んでいる)を確立しつつある.一方で国のプロジェクトである経済産業省事業「インテリジェント手術機器研究プロジェクト」が昨年度から始まっている.本事業は5年後の実用化を目指し,脳神経外科領域,胸部外科領域,腹部外科領域でのロボティック手術に必要な要素技術を確立し次世代の画像誘導手術を開発するものである.具体的には3D内視鏡を用いたデジタル手術を開発し,術中,腫瘍と正常組織をリアルタイムに鑑別するリアルタイムセンシング法,それに仮想的3D内視鏡を用いたトレーニングシステムとそれらの情報を統合し手術支援をするヘッドクォーターシステムを付加したシステムである.外科手術の高度化が進む一方で,過酷な労働条件と医療訴訟に対する不安から脳神経外科医希望者が減少している.そこで今後,若い医師にとってより魅力のある,より安全・安心な上記のような外科手術法と手術機器の開発と実用化が望まれる.
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