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本号では扉に濱田潤一郎教授の「硫黄島からの手紙の味わい」という原稿をいただいた.敗戦につながった硫黄島の戦いと崩壊につながりつつある日本の医療の現状を重ね,また最前線で指揮を執る栗林陸軍中将と濱田教授の日本の将来を憂う思いが切々と綴られている.おそらく,これまでわが国の脳神経外科医療の発展に寄与してきた脳神経外科医全員が同じ思いを抱いていると思う.現在の少子高齢,人口減少社会において戦後の日本の繁栄を支えてきた団塊の世代が,ここ数年で前線から退き,代わって社会の主軸になるのがバブル崩壊時に就職期を迎え,失われた10年の長い不況時代を経験し,現在総中流社会から格差社会へと社会構造の変化の中で戸惑っている25~35歳の若者達である.医療界においても,初期臨床研修の必須化,マッチング制度の導入,医局制度の否定,そして医師,看護師の不足と偏在の荒波の中,今後中心となる若手医師が戸惑いながらもこれまでのように医学研究や社会福祉への貢献に情熱を傾けられないでいる.
一方,国は医療の質と安全性の確保,そして歯止めのかからない国民医療費の高騰を抑制する目的で診療報酬の引き下げ,DPCの導入,高齢医療制度の導入,療養病床の削減,そして次には急性期病院の削減,有床診療所の見直し等の医療制度改革が着々と進められている.いずれも運用次第ではむしろ改悪になることが危惧される.どちらにせよ直接影響を受けるのは国民であり,今こそ医療提供者と医療享受者である国民とが一体となって正確な医療情報を共有し,医療制度のあり方を考える時期であり,またこれまでのような病院,医師中心の医療から,患者・市民中心の医療へとパラダイムシフトが必要だと感じている.
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