Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
「脳の世紀」と言われる今世紀に入り早10年以上が経った。この間,これまで生理学,解剖学,神経病理学,精神医学など個別に発展してきた脳神経の研究分野の学際的研究が飛躍的に進み,さらに分子生物学やゲノム医学との融合により,まさに脳の世紀と呼ばれるに相応しい研究成果が出始めている。特に脳イメージングおよび解析技術の革新的な進化などによって,われわれヒトや生きた動物の脳の活動や構造を直接観察できるようになり,現在,国内外で脳の神経細胞の活動や神経細胞同士の連絡様式を網羅的に解析しようという大型プロジェクトが進んでいる1)。
日本のように少子高齢化が進んだ社会において,脳の発達を助け,生涯にわたり機能を維持し,さらに,もしも機能低下が起こった場合には可能な限り回復させる,という医療的要求が今後ますます高まっていくことは想像に難くなく,脳機能の発現機構の解明や脳機能改善のためのそう薬は現在の最重要課題の1つである。特に,最近の知見により,神経ネットワークの発達異常が精神・認知活動の機能的障害をもたらす根本原因の1つであると考えられるようになってきた2,3)。また,われわれは日々の経験を“記憶”として脳の神経ネットワークに書きこみ保存しているが4,5),ストレスや加齢による神経ネットワーク局所の機能不良が蓄積されることにより,記憶の維持や想起能力が低下していくと考えられる。このように,さまざまな脳機能およびその障害を理解するためには神経ネットワークの動作原理を理解することが重要であり,そのためには,まず神経細胞同士の情報伝達機構の基本構造を知り,その作動原理を明らかにする必要がある。
本稿では,このような観点から,はじめに神経情報伝達の基本素子であるシナプスの機能と構造について概説し,次に,シナプス伝達効率の調節機構について,さらに,シナプス伝達効率の変化を長期化するメカニズムについて最近の研究結果を交えながら解説したい。
Abstract
Neurons make contact with each other and form neuronal networks. The synapse, the site of contact between 2 neurons, has the ability to dynamically modify functional efficiency and connectivity in response to spatially and temporally specific patterns of neuronal activity. Such plastic ability of the synapse is believed to be indispensable for our cognitive functions, including learning and memory. In this review, I summarize our current understanding of the molecular and cellular mechanisms underlying synaptic plasticity. Lines of evidence have indicated that postsynaptic regulations of AMPA-type glutamate receptors (AMPA-Rs) are crucial for synaptic plasticity. Synaptic plasticity can be long-lasting if the local synaptic modifications interact with activity-dependent, newly synthesized plasticity-related molecules in the neuronal cell body. Recently, we found that the activity-regulated memory-related protein Arc is involved in synapse-specific regulation of AMPA-Rs. This Arc-dependent mechanism, together with other molecular mechanisms, possibly helps maintain the contrast of synaptic strength between strong and weak synapses, thus, promoting the formation of long-term memory.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.