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本症はごく最近,Goldsteinら1)により提唱され,汗腺・毛嚢への分化を同時に示す点で,非常に興味深い腫瘍である.海外においてもその報告は少なく,本邦においては漸くその報告が当誌を初めとして散見されて来ている(当誌41巻12号,p.935,山元真理子,他).私の知る限りでは,本邦においては本症の報告は既に1983年加藤・杉浦2)が第34回日本皮膚科学会中部支部学術大会・臨床病理カンファレンスにおいて本症と思われる症例を"皮膚腫瘍"として報告しており,その際の指定討論者の多くの診断はdesmoplastic trichoepitheliomaであった.その後,1986年竹宮ら3)が本症と思われる症例を第2回皮膚病理組織研究会において報告,1986年11月第37回日本皮膚科学会中部文部学術大会において高橋ら4)が,第38回日本皮膚科学会西部支部学術大会において中北ら5)がそれぞれmicrocystic adnexalcarcinomaの1例を報告している.さらに1987年8月,川島ら6)は,第3回日本皮膚病理組織研究会において,本症の1例を詳細な検討を加えて報告している.本症は深部まで採取した標本からでないとdesmoplastic tri—choepithelioma, trichoadenoma, syringoma等との鑑別が困難で,本邦においても前記の症例以外にも他の診断名で報告され,あるいは報告されぬまま埋もれている症例の存在する可能性が考えられる.これらの症例について十分な検討を行うことにより,さらに興味深い知見が得られるものと期待される.
また,本症はcarcinomaと命名されているが,病理組織学的には核の異型性や細胞分裂像等,悪性を思わせる所見に乏しく,転移の報告も稀である.しかし,深部に浸潤しやすい点を考えると,局所的に悪性とでもいうべき腫瘍と思われる.本症の診断の重要なポイントとして,腫瘍細胞の神経周囲や筋肉等への浸潤があげられるが,稀には軟骨や骨周囲への浸潤もあるといわれている.十分な切除が行われないと再発しやすく,しかも術後長期間経過した後,初めて再発が明らかになる可能性もあることは,本症の治療上特筆すべきことと思われる.
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