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Ⅰ はじめに
アレルギー性鼻炎の有症率が上昇しているのは紛れもない事実とされてきたが,最近ややプラトーに達した観もある。これは臨床医としての推測であるが,正しい方法による同一地域,できれば全国的な疫学調査が定期的に行われることを望むものである。われわれが行った1998年の全国調査によれば,通年性アレルギー性鼻炎18.7%,スギ花粉症16.2%,スギ以外の花粉症10.9%であり,何らかのアレルギー性鼻炎をもつ割合は30%を超えていた。この数値がさらに大きくなっているかどうかは別にして,全国民の30%が罹患している疾患に対しては,国を挙げての対処が必要であろう。
厚生労働省は,evidence-based medicine(EBM)を臨床の現場で容易に適応し得ることを目的とした,各種疾患のガイドライン作成のための研究会を設置した。作成する疾患の優先順位を,治療ガイドラインの有効性,患者数,費用対効果比の改善,治療の標準化などの面から疾患ごとに検討し,アレルギー性鼻炎は11番目の順位となった。高い有病率と花粉症だけでも年間コスト2,860億円と試算される疾患は,何らかの対処が必要と考えるのは当然であろう。
アレルギー性鼻炎は生命予後に関係する疾患ではないが,quality of life(QOL)を低下させ,生産性,学習能率,社会活動などに影響を与えることから,患者満足度を高める方向での治療法選択が重要視されようになりつつある。一方,治療薬の進歩はEBMに則した治療が行われれば,症状の軽減は確実に得られるところまできていると考えられる。しかし,コンプライアンスの問題,さらにはアドヒアランス,すなわち患者自身がどれほど意欲をもって自身の病気と取り組めるかについては軽視されている傾向にある。一人一人の症例に対する説明や教育と同時に,社会に向けての啓蒙活動もアレルギー性鼻炎に対する医師の対処法の1つと考えなければならない。
本稿では,鼻アレルギー診療ガイドライン1)を中心に述べることとするが,治療法はアレルギー性鼻炎の発症機序と薬物などの作用機序との接点において選択されるべきであると考えている。したがって,発症のメカニズムを確認しておくことが,病気への対応の第一歩であろう。
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