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蚕食性角膜潰瘍Mooren's ulcer, rodent cor—neal ulcerは,潰瘍が角膜輪部の一部から始まり,徐々に中央部に向かって進行するとともに,やがて角膜のほぼ全周に広がる原因不明の疾患である。潰瘍の先端部は常に角膜実質の中を潜行し,潰瘍の上部にはまだ上皮層が舌状に残っている。潰瘍の進行があたかも蚕が桑の葉を食い進む様子に似ているので、その名がある。潰瘍部に近接する輪部結膜は赤く充血して盛り上がっている(図1)。潰瘍の先端が通過したところでは,角膜は菲薄化し,血管新生を伴って結膜上皮で覆われ,瘢痕化する。菲薄化した角膜は,自然にまたは外傷によって破裂する。
本症は,厳密には,明らかな全身疾患を伴わず,かつ強膜炎を伴わない周辺部角膜潰瘍で蚕食性に進行するものをいう。したがって,リウマチ性関節炎,結節性多発性動脈炎,ウェジナー肉芽腫症などに合併して起こる周辺部角膜潰瘍がしばしば本症と診断されることがあるが,これらは区別されるべきである。また,逆に角膜周辺部潰瘍の患者に遭遇した場合には,安易に本症と診断しないで,基礎疾患の有無を十分に検討する必要がある。
病理学的特徴は,角膜潰瘍の先端部付近に多形核白血球,特に好中球の浸潤と輪部結膜のリンパ球およびプラスマ細胞の浸潤である。本症は,何らかの原因で病的な角膜上皮が抗原刺激となって,それに対する抗体が産生され,抗体と補体が結合した免疫複合体が輪部結膜の血管壁に沈着することによって起こるアレルギー反応と考えられる。このことは,角膜上皮に対する血中抗体の存在や補体の上昇が明らかにされ,また輪部角膜の血管壁に好中球の浸潤(図2)がみられることからもその可能性が支持される。免疫複合体の沈着に誘導されて血管壁に集まった好中球は脱顆粒を起こして(図3),胞体内から水解酵素やリゾチームを放出して,周囲の組織,特に病的角膜上皮および上皮下の角膜実質を破壊する。潰瘍に陥った角膜および輪部結膜からコラゲネースあるいはプロテアーゼが産生されて,次々に角膜が融解する。さらに,輪部結膜には,彩しい数のプラスマ細胞が浸潤する(図4)。
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