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◎はじめに
何故,論文を書くのでしょうか? その最大の目的は自分が賢くなるためだと思います。論文を書くことによる能動的,積極的な勉強は,確実な知識の定着にとどまらず,各方面への応用を可能にします。自分の専門分野各項目のすべてについて論文を書くことができれば,自信をもってその職責を遂行することができます。他人が書いた論文を読むだけの受動的な勉強だけでは,知識を深めていくことは難しいでしょう。
“Peer review”の過程を経て出版されることにも意義があります。“Peer”とは「同じ分野を専門とする人」のことであり,多くの場合でreviewerはそのなかでも業績のある人が指名されます。すなわち“peer review”とは,ある論文に対してその専門分野のなかでも業績のある複数の査読者が意見を述べ,それらを総合して編集長がaccept,reject,revisionを決定する過程といえます。査読者の評価が割れた場合,最終的な判断は編集長によって行われます。“Peer review”は複数の善意の第三者による論文の評価過程であり,この洗礼を受けているがゆえにpeer reviewを通過した論文は価値をもつのです。学会発表や日本語の総説執筆は,このような厳しい“peer review”の過程を経ていないため,業績としての評価は小さいと考えてよいでしょう。
以上のような背景だけを考えると,論文を書く手段は日本語でも英語でも構わないように思えます。しかし,英語で論文を書くことは,地球の裏側の医師にも読んでもらえる可能性を生ぜしめ,その結果,自分の仕事がより多くの患者を救うことにつながります。また,査読のコメントで勉強ができるかどうかという点も重要です。Rejectであろうとacceptであろうと,英語雑誌のほうが総じて有益なコメントが提示されていることが多く,日本にいながらにして,教科書的知識の行間を埋めることができ,その専門分野の常識を知ることも可能となります。また,良質な英語論文を数多く書くことによって海外のdoctorから尊敬の念をもって対応されるようになり,お互いを理解しあえる真の「友人」を作ることもできます。学会などで「知人」を作ることはできますが,業績の背景がない場合にはそのレベルで止まり,真の「友人」となることは難しいでしょう。
ところで,日本からはかなり多くの英語論文が投稿されていますが,acceptとなる率は欧米諸国に比べてかなり低くなっています。何故でしょうか? 論文の内容は日本と欧米でさほど異なるものではありません。では何故? それは「論文がわかりにくい」という一事に尽きます。日本から投稿された論文は,多くの場合で論理の運びが悪く,査読者が内容を理解できなかったり,理解するために多大な労力を必要とするものです。このような場合,内容の良し悪しは全く関係なくなります。査読者が読んでくれないのですから。Acceptされるためには,査読者が労力を費やすことなく自然に理解できる論文を書かなくてはなりません。欧米からの論文のなかには,内容は大したことがないようにみえるにもかかわらず,一流誌に掲載されるものがあります。査読者がわかる論文,すなわち,査読者が労せず読むことができた論文であったということが最大の理由でしょう。
本連載では全6回にわたり,査読者に労せず読んでもらえるような論文執筆のテクニックを紹介します。なお,本文は理解の容易のため「である」体を用いています。また,参考文献は第1回の最後にまとめて提示します。それでは半年間,お付き合い下さいませ。
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