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卵巣は骨盤内にあり,直達不可のいわゆるsilent organであるため,子宮頸癌や子宮体癌あるいは乳癌のように比較的容易に「細胞診」や「組織診」を行うという訳にはいかない。それ故,また一方では卵巣癌が近年増加しつつある傾向ともあいまって腫瘍マーカー(以下マーカーと略)にかける期待には大なるものがあった。現状は如何であろうか。術後再発の早期発見,化学療法のモニターリングなどには極めて貢献著しいものが見られるが,早期卵巣癌の初期診断,スクリーニングという観点からはむしろその「限界」が明らかにされつつあると言っても過言ではない。
さて,マーカーを用いた卵巣癌のスクリーニングであるが,その意味するところは子宮頸癌における細胞診のように「一次検診」として捉えるのが本筋であろう。しかしながら,卵巣癌は他の婦人科悪性腫瘍とは異なり,「ハイリスク群」の設定が困難である。全年齢層に渡って,しかもある一定期間をおいてマーカーを測定し,「診断効率」をプロスペクティブに検討できれば理想的であるが,癌発症率が7.9人(対10万人,千葉県,平成2年度),また医療費総額が20兆円を超えようとしている「現実」を考えると,cost efficiencyの面より実現困難である。従って,本稿で述べる成績は何らかの理由で婦人科外来を訪れ,通常は内診・超音波検査などで付属器部位に明らかな「異常」が認められ,他の診断法,あるいは手術によって確定診断が得られた症例や,「良性・悪性の鑑別」といった「二次検診」的な目的でマーカーが使用された症例を対象としており,本来の「(一次検診的)スクリーニング」という観点からは厳密には若干異なることを付記したい。
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