特集 外科と保険診療
基金顧問の立場から
篠井 金吾
1
1東京医科大学
pp.1614-1616
発行日 1964年12月20日
Published Date 1964/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203490
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まえがき
私は正直にいつて,医療保険にはズブの素人である.素人ということは無関心ということではなく,細かいルールをよく知らないということで,そのような人間がなんの機縁か,基金の顧問に就任することになつた.そこで先ずその理由や心境について一言して置くことが至当であろう.以前まで基金の顧問をされていた方は,学会の大長老で,すでに第一線を退いて実際画から遠ざかつた大先生方ばかりで,貫録からいつて顧問という名に相応しい方ばかりであつた.しかし,医学の進歩のテンポはあまりにも早く,また,細かく分科してきた今日では,実際に第一線に立つている現役の人から顧問を求めなければ,実際の役目は務まるまいという考え方が,基金幹部の方針として打ち出された.これにはまつたく同感の意を表さない人はないといつてよいたろう.心臓外科の進歩の途上においては保険審査に当つて幾多の問題が派生したことを聞いている.例えば,人工心肺が臨床に用いられる段階になつたとき,いまだこれは実験的階段のものとして否定された顧問がいて,そのため人工心肺がいまなお保険に認定されていないということを仄聞している.もしそのとき,現役の心臓外科をやつている人が顧問であつたとしたら,今日どういう結果に変つていただろうか.こう考えると,顧問の責任は重大で,医学の進歩と保険診療の正しい運営を結びつける橋渡しの役目を果さなければならぬと考えられる.
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