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編集後記
塚越 広
pp.375
発行日 1973年3月1日
Published Date 1973/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203298
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- 文献概要
神経学における臨床所見の重要性については今更述べるまでもあるまい。複雑な神経疾患を診断し,治療する根拠となるものは,確実な臨床所見と検査データーである。新しい神経疾患の発見や原因の解明に際しても,臨床所見が重要な役割を演ずる場合が少なくない。最近のSMONにおけるキノホルム解明のきつかけは,膨大な研究データーというよりも,緑舌,緑尿という簡単な臨床所見であった。
ところで神経学における症例報告は,その疾患についての臨床所見の集約とも言えるものであろう。ある症例が報告に値するか否かをきめるには,神経学全般に亘っての広く深い知識が必要である。症例報告の多くは,今まで記載がないか,または極めて少ない稀な病気か,そのなかに従来と異なる何等かの新しい知見が認められるか,あるいは今までわかつていながら余り注目されない事柄を強調するかの何れかの場合であろう。報告者は症例の臨床的事項を熟知した上で,広く内外の文献を読み,昔から現在まで記載されたすべての類似症例をしらべ,これらを総合して,その症例をいかなる根拠で,いかに診断し,いかなる疾患分類上の位置づけを与え,その臨床所見,検査データーなどをいかに解釈するか報告者自身の考えを明らかにせねばならない。さらに症例の病歴,臨床所見などの完壁な記載が要求される事を考えると,症例報告は決して容易なものではないことは明らかである。症例報告は報告者の全人格の反映で,報告者によってその内容も全く異なるものとなる可能性を含んでいる。
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