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はじめに
児童精神科を中心としたクリニックを開設してすでに18年を経過しているが,その間,社会の認識度や認知度が大きく変化しているという実感はない。あえて言うならば,5年前の阪神大震災を契機として,精神医学およびメンタルヘルス全般が,皮肉にもやっと社会における市民権を得始めたのに附随して,児童精神医学の分野にも曙光が射し始めたといって過言ではないであろう。現に,我々にもっとも近い存在といっていい学校の教師(教育委員会や,校長,教師を含めて)ですら,“児童,生徒のこころの健康”についての重要性は十分理解しているにもかかわらず,児童思春期精神医学の存在に対する認識は曖昧であり,精神医学全般を包括して考えており,その特殊性,専門性に対する理解はほとんど無に等しい。それどころか,我々の医師仲間の間ですら,我々は“精神科の医者”としてみられており,“児童精神科専門医”としてはみられていない。一般の医師(内科や小児科など)には,児童精神医学の存在の認識すら乏しく,ましてやそれを専門とした開業医となると言わずもがなの存在であろう。遇々に紹介を受けても専門医というより,“あの先生は不登校児のカウンセリングをていねいにやってくれるから……”というものであることが多い。それでも少しは専門性を認められたのかと自負しているのが現状である。
少し,辛口の現況報告になった感があるが,児童精神科クリニックの存在の希薄さは,その原因が社会的な環境や状況にのみあるのではなく,むしろ我々のほうが社会の中にその存在をアピールすることを怠ったことにもよるのではないかと考えている。
以下,私のクリニックの現況を報告し,我々の存在を社会にどのように示し,どのように足場を得ていったらよいのかを日常の活動の中から分析し,その灯を燃やし続けていくための方向づけを考えたい。
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