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はじめに—精神科医に求められる能力についてのアンケート調査の結果の日米比較
筆者ら9)は現在,厚生科学研究「精神保健指定医の指導医の役割と資格要件についての研究」を行っている。精神保健福祉法下の現在の精神医療における指定医の資質を高めるには,指定医になるまでの指導・学習態勢がどのようにあったらよいかを研究目的とする研究である。研究班は大学,国立病院,自治体病院,民間病院から選ばれた11名で構成されている。この研究の一環として必要あって1997年に全国大学,国立病院,自治体病院(以上は全国全病院),民間病院(ある基準で抽出),計777施設を対象にあるアンケート調査を行った。それは指定医を志す人の指導に当たる人を仮に「指導医」と呼ぶこととして,その人たちにどのような知識と技能が期待されるかという内容のものである。回答者は教授,科長,院長,医局長など施設を代表する人々であった。502施設(64.6%)の回収率が得られた。
内容の詳細は省くとして,「不可欠」「あったほうがよい」「必ずしも必要でない」「その他」「無回答」の選択肢のうち,「不可欠」が選ばれた項目の集計をしたものを表1に示す。内容を検討してみると,我が国の精神医療の現場の責任者たちから,「指導医」の資質として期待される知識と技能が見えてくるのである。「不可欠」なものとして75%以上の最高率に挙げられているのは「法律とその適用」に関する項目である。「向精神薬の副作用に対する対応」や「診療記録の作成技能」がこの最高率の中に入っているのも管理的心性が働いているのかもしれない。次のランク,50〜75%の回答者によって「不可欠」とされたのは,「一般精神科臨床」に関する項目であった。ただ,内容的に項目ごとに検討していくと,Q7「精神医学的面接技能」70.9%,Q6「インフォームド・コンセント」69.7%,Q12「機能性(精神病)障害についての知識と鑑別技能」68.1%,Q26「患者とその家族に対してよい治療関係を作るための知識と技能」53.8%,Q27「支持的精神療法についての知識と技能」51.4%などと首をかしげる数値が並んでくる。第3のランク,25〜50%の回答者によって支持されたのは「心理社会的アプローチ」に関する項目と呼べるものであった。この中に,Q14「児童と思春期」48.8%,Q9「家族への介入技法」48.4%,Q34「治療チーム」44.0%,Q20「身体合併症」40.2%,Q40「社会復帰施設についての知識と患者に適した選択」31.3%,Q42「退院後の適切な地域ケアを考慮したプランニング」29.9%などが含まれ,精神保健福祉法のもとでの精神医療の実務担当者としての「指導医」の責任を考えると暗然としてくる。最低のランク,回答者によって25%以下にしか「不可欠」とされなかったものには様々なものが含まれているが,Q31「心理教育」22.7%,Q32「生活技能訓練,SST」9.0%など「新しい技術に関する項目」が含まれている。Q25「心理テストについての知識」15.1%と低いのもチーム医療を考えるとき精神科医側に大きな欠陥がありはしないかと危惧される。
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