巻頭言
改定GCPと新しい臨床試験の在り方
青葉 安里
1
1聖マリアンナ医科大学神経精神科
pp.232-233
発行日 1998年3月15日
Published Date 1998/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904501
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我が国における臨床試験は今不幸な時代にある。医薬品メーカーは新薬の開発を躊躇し始め,また医療機関や多くの医師たちは,臨床試験から一定の距離を置くようになってきた。いわば臨床試験の空洞化といわれる現象が起こっているのである。この空洞化をもたらしたものは何か。ここ数年,我が国では臨床試験データの改ざん,ねつ造といった事件,また血液製剤で代表される臨床試験の私物化,さらには臨床試験の経費にかかわるスキャンダルなどが散発的に起こり,それを多くのマスコミが報道してきた。これらの多くは,あたかも我が国における臨床試験のすべてが悪質なものであるといったようなネガティブキャンペーンであった。臨床試験バッシングである。
1997年4月,厚生省は旧来の医薬品の臨床試験の実施基準(Good Clinical Practice;GCP)を省令として改定した。これは我が国のGCPを欧米とハーモナイズさせることにより,臨床試験の質を飛躍的に向上させることに眼目がある。具体的には試験プロトコールを厳密に審査するための治験審査委員会(Institutional Review Board;IRB)の構成メンバーを整備すること,薬事法に裏打ちされた形で臨床試験の監視機能を高めること,そして倫理的な側面から患者の人権を厳守すること,という3点が改定GCPの柱となった。これを完全に遵守することによって,我が国の臨床試験の質は飛躍的に向上するはずである。患者の人権も確保されるであろう。しかし,空洞化といわれるほどの我が国における臨床試験の現状と,新しく改定されたGCPの目指すものとの間にはあまりにも大きな隔たりがある。
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