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はじめに
不眠は精神科だけでなく,いずれの診療科においても遭遇する最も頻度の高い症状のひとつである。日本における代表的疫学的調査2)によると,成人のおよそ5人に1人が不眠に悩み12),20人に1人が睡眠薬を使用している2)と報告されている。こうした不眠症に対する治療法としてベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬が広く使用されている。BZ系睡眠薬は,かつて多く用いられていたバルビツール酸系睡眠剤やプロム尿素系睡眠薬などと比べ,強い耐性形成がなく,著しい不眠を主とする離脱症状が出現しにくく,経口投与においては呼吸中枢への抑制がほとんどみられない,などの点でより安全な薬剤である。
BZ系睡眠薬では,持ち越し効果による日中の覚醒度の低下や,反跳性不眠,筋弛緩作用,健忘などいくつかの副作用が指摘されている。このうち,持ち越し効果については,薬剤の作用持続時間に関連したものであり,不眠の症状に応じ適切な作用持続時間を持つ薬剤を選択することで,こうした副作用を最小にできる。しかし,筋弛緩作用や反跳性不眠,治療後の薬物離脱に関しては多くの問題があった。筋弛緩作用による転倒は,とりわけ高齢者において骨折を招く頻度が高く,長期臥床を余儀なくされるためその後の生涯にわたり生活の質の低下をもたらすため問題となっていた。近年,BZ受容体サブタイプへの選択性と作用スペクトルとの関連が注目されるようになり,筋弛緩作用はBZのω2受容体に対する作用によるものであることが明らかになり,鎮静・催眠作用はω1受容体への作用によるものであることが明らかになった。こうした中で,ω1選択的agonistによる睡眠薬が注目され,開発が行われている。日本においても,最近ではω1受容体に対する選択的作用を持つ睡眠薬であるクアゼパム,ゾルピデムが相次いで登場し,既存のBZ系睡眠薬の問題点とされている筋弛緩作用や反跳性不眠,健忘作用などを起こしにくい睡眠薬として期待されている。
本稿では,BZ系睡眠薬の使用法について述べ,新しい睡眠薬であるクアゼパム,ゾルピデムの臨床効果と副作用について展望する。
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