書評
—中島 俊 著 入職1年目から現場で活かせる!—こころが動く医療コミュニケーション読本
堀越 勝
1
1国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター
pp.978-979
発行日 2024年7月15日
Published Date 2024/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405207341
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誰もが経験済みのことだと思うが,ゴミ出しをしようとしているところに「ゴミを出せ」と言われて,すっかりスネ夫になってしまった。逆にやるかやるまいかと迷っていると誰かの一言でにわかにやる気満々になったなど,言葉がけのタイミングや投げられた言葉によって思いも寄らない方向にこころが動かされることがある。言葉掛け1つでこのようにこころが動くのならば,医療における言葉掛けがどれだけ患者や医療スタッフのこころに影響を及ぼすかは自明のことである。もしかすると,患者の治療動機や治療継続性を高めるための特効薬は,医療スタッフ側のコミュニケーションスキルそのものなのかもしれない。
米国の医療現場で発生した訴訟問題の分析結果を見ると,訴訟問題の約7割は患者と医療スタッフ間の人間関係問題であり,内容的には「配慮がない」,「話を聞いてくれない」,「情報を適切に渡してもらわなかった」など,大半はコミュニケーションの問題だとされている。米国は訴訟社会と言われる通り,医療現場で起こる問題が訴訟という形で表面化しやすいのだろう。一方日本は「和を以って貴しとなす」の国であり,コミュニケーション問題は表に出づらいのかもしれない。しかし,見えないすなわち問題なしではなく,患者や医療スタッフが傷ついているのにもかかわらず,「我慢すべきだと思う」,「周りとの不和を避けたい」などの理由から表面化しないのだとしたら,ケアの観点から,その背後には巨大で深刻な問題が横たわっていることになる。
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