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はじめに
アルツハイマー型認知症(AD)の臨床症状全体の構造としては,まずADの神経病理学ならびに病態生理学的な基本病態をもとに認知機能障害が生じ,それと密接に関連して生活障害が起こる。この関係はプレクリニカル期から軽度認知障害(MCI)期を経てAD期,そしてAD期の中でも軽度,中等度,重度と長い時間の経過の中で続いていく。その中でも診断の際に特に注目されることになるMCIから軽度認知症の時期の認知機能障害と生活障害の側面については,研究成果の積み重ねと臨床的実践をもとに最近改訂されたNIA-AAおよびDSM-5の診断基準を参照しながらみていきたい1,9,20)。一方でBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)については,ADの経過中,ほとんどの患者に生じるとされておりADの主要な症状であるが,認知機能障害や生活障害の関係ほど平行して生じるわけではない。しかし,BPSDは環境因子などと関連しつつADの病態と密接に関係しながら生じる。それは,患者やその家族の生活の質を損ない,本人・家族にとっても社会にとっても大きな損失を招く7)。ADの症状は簡単に述べるとこのような基本となる相互関係の構造を持っているが,個々の患者でさまざまな要因による相違があり,可能な範囲で,その点についても述べていく。基本構造の中で,生活障害についてはさまざまな支援により補うことが可能であること,BPSDは疾患本来の病理,本人や家族の心理的要素,地域の人々が持つ偏見など多くの環境要因により修飾されることなどから,臨床とケアの研究・実践がもたらした結果として症状の基本構造は年々少しずつではあるが望ましい方向に転換してきている。多くの医師は,ADを個人の疾患として診断・治療するといった従来の医学モデルでの対応だけではなく,さまざまな割合で生活障害への眼差しを持ち,環境要因へのアプローチを行っていると思われるが,生活モデルかつ関係性の疾患として捉え直すとその症状の構造に大きな差が生まれる可能性がある。さらに近年,認知症ワーキンググループなどで認知症の本人が主導して自分たちの認知症体験を語り,その思いを一般市民や施策に届ける動きや認知症カフェなどで役割を担っていく姿をみかけるようになってきた。これらの動きは症状の基本構造を捉える医療関係者や市民の意識にさらなる変更を加えていくであろう。
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