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Helicobacter pylori(以下,H. pylori)陰性胃癌について,本号ほど豊富な内容で論じられた書物は世界中どこにも見当たらない.萎縮性胃炎と腸上皮化生が胃癌の原因であることは,これまでの数え切れないほど多くの研究で明らかであった.しかしながら,何が原因で萎縮が起こり,腸上皮化生が発生するのかは長い間不明であった.その後,WarrenとMarshallにより,H. pyloriが胃粘膜より分離培養され,その菌が胃炎の原因であることが明らかになった.胃粘膜の炎症,萎縮,さらに腸上皮化生はH. pylori感染陽性者に主に認められる現象で,胃癌のH. pylori感染率が95%以上と極めて高いことからも,胃癌の原因はH. pylori感染と考えられるようになった.さらに,胃炎の血清マーカーであるペプシノゲンとH. pylori感染の有無の検査とを組み合わせたABC法が胃癌の高リスクを評価する方法として普及し,胃癌とH. pylori感染との関係はますます密接なものとなっていった.一方,どう見ても胃炎や萎縮のない胃粘膜から発生する胃癌が少数ながらあり,複数の診断を行ってもH. pylori感染を証明できない胃癌症例や,ABC法のA群から発見される胃癌があることが指摘されるようになったが,極めて稀な現象との思いがあった.
今回の特集号は私と飯石浩康先生,八尾隆史先生の企画で進めたが,H. pylori感染と胃癌との関連が極めて多くの研究で支持されている状況下において,まず陰性胃癌を主題とした特集号が成り立つのかという危惧から始まった.しかしながら,H. pylori感染率が低下し,除菌療法が広く行われ,さらに,ABC法を用いた検診が普及する状況の中で,H. pylori陰性胃癌について検討することが極めて大きな意義をもつことがわかり,この企画は必ず取り上げなければならない,完成しなければならないという使命に変わっていった.
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