保健婦活動—こころに残るこの1例
さんちゃんありがとう
高井 和恵
1
1千葉県市川保健所
pp.494
発行日 1990年7月15日
Published Date 1990/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900139
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ある日,福祉事務所から1本の電話が保健所に入った.駅近くの高架下でアルコールの臭いをプンプンさせた結核患者が倒れているという.どうも排菌のまま病院を抜け出してしまったらしい.住所不定で保健所で何とかしてほしいとのこと.救急車で病院へ運ばれたが結核病棟がないため,一晩だけという条件つきで近くの結核病院へ回された.だが,今後の収容先をどうしたものか,アルコールの問題,排菌,糖尿病と三拍子そろっていては入院先の病院探しは難しい.とにかく,本人が実際にどういう状況なのか把握する必要があった.
課長は,サザエさん(私のニックネーム)1人ではと同僚をつけてくれた.急いで結核病棟を訪問したところ,ベッドより処置室まで歩けないほど衰弱していた.車椅子姿で現れた本人は,こじんまりした体格でおびえた感じさえした.苦しそうに「もう二度と逃げ出したりしません」と涙していた.この時の彼の苦痛は他ならぬアルコールによる離脱症状で,指先にチラチラものが見える,絶壁に立たされたような恐怖であったという.
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