特集 公衆衛生医師
環境保健における公衆衛生医師の役割
橋本 道夫
1
1環境庁
pp.307-314
発行日 1973年5月15日
Published Date 1973/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204661
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1.失われた権威と指導性
過去において,不衛生な生活環境のため各種の伝染病や乳児死亡が最大の公衆衛生の問題であった時代には医学や公衆衛生における医師達は,無知や貧困と闘いながら近代的な公衆衛生の道を拓いて来た.その中では医師の権威と指導性は確かに大きな役割りを果たして来た.現在でも結核や,急性伝染病や,伝統的な母子衛生の問題等の領域の範囲では医師は医学に根ざした権威と指導性を保っている.しかし現在多くの国民が関心をもっている環境保健の問題,たとえばPCBやBHCなどの人体影響や,大気汚染による慢性影響,水銀やカドミウムなどの重金属の慢性影響,航空機騒音の影響などの問題について医学や公衆衛生の医師は,市民や各種の分野の専門家などからの人間の健康に関する質問について,以前の公衆衛生の諸問題に対するような明快な権威のある答えをすることがほとんど不可能になっているといっても過言ではない.
人々はただ心配して医師に問いかけるだけではなく,さまざまの理屈をならべてむしろ医学や公衆衛生に対する批判と攻撃すらも含めた態度に出てくる場合に遭遇することが多くなった今日の世の中においては,私は昔の医師のもっている権威と指導性は少なくともこの現実の環境保健問題の領域では失われたと思っている.
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