談話室
老人福祉に対する感想と所感
渡辺 定
1,2
1成城大
2厚生省官房統計調査部
pp.324-325
発行日 1968年9月15日
Published Date 1968/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203728
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大正6年,東大医科を卒業して入沢内科に入局,外来の患者を診ていたある日,48歳の肺結核の労働者に休養をすすめたところ,落涙して"1週間も休んだらクビになり一家が餓死するから,高くとも薬を…"と悲しまれ,私は,何のための医学ぞとショックを受けたが,大正15年,2カ年の欧米留学に,ドイツで,どこの病院でも入院料が3.5マルクで同じなので調べたら,1883年以来ドイツ国民の労働者は社会保険があり,疾病・失業・老年・遺族への給与があり,当時は月給取にも及んでいた。当時はイギリスのほうがおくれており,入院は自費払いであった。
そのころ,第8回国際アクチュアリー(保険数学)会議がロンドンに開かれたので参加したが,疾病保険・廃疾保険などが議題になり,ことに身体に欠陥のある弱体の生命保険の可能性がすでに小規模ながら行なわている米国・北欧から発表された。つまり1927年ごろの人類のこの方面に対する福祉の暁の時代ともいえよう。そのころ昭和元年日本では,健康保険が約200万の労働者にやっと実施が始まっていた程度で,やっと,私の帰朝した昭和4年,10万人の欠陥体についての寿命の調査がすんで,日本にも,弱体保険の端緒のできた程度であり,総じて国民の福祉活動方面は約40年くらい立遅れていたわけである。
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