主張
拔けた社會保障制度案
大渡 順二
1,2
1保健同人
2保健タイムス
pp.114
発行日 1950年10月15日
Published Date 1950/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200710
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社會保障制度という言葉ほど便利な言葉はない。その概念にしても狹い經濟的な救貧の考え方から,無血革命の考え方にまでお好み吹第の振幅をもつている。だから無産者の陣營からもこれを唱えれば,自由黨の吉田内閣までも一樣にこの言葉をお守札のようにばらまいて來ている。議會で國民福祉について困つたことがあれば,何でも彼でも「何れ社會保障制度の一環として考えたい」といい抜けて來た。その扱い方は誠に不眞面目そのもので,現に,あの六月の試案要綱が審議會から發表されたに拘らず,これを本格的に採上げるための内閣の行政的姿勢はちょつとも講ぜられていない。一握の事務官が寒む寒むとふるえているに過ぎない。
だだこの試案要綱が,その内容的な批判は別として,ともかくも一應まとまつた構想として,いままでの雲をつかむようだつた問題に,有力な方向を示唆した功績は大きい。現に明年度の豫算に結核對策が可成り幅廣く,總花的に計上されたのも,たしかに,この試案要綱に負うところが多いと思う。逆に皮肉に言えば,本來の結核對策が,この「社會保障制度をつくるべし」の世論に便乘し,その試案要綱を利用して,抜け目なく點を稼いだといつた形である。
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