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「HIV陽性」という結果を受け取った人たちがどのように暮らしているのかを,多くの市民は知らないでいる.いまだに致死性の高い疾病だというイメージを持っている人もいるであろう.国内で,これまでに1万人を超える人が報告され,毎年1,000人以上が新たに自分の感染に気づいている.それでもHIVを遠い存在として感じている人が大多数という現実がある.
私はHIVに感染した人,その周囲の人々を支援するNPO「ぷれいす東京」で相談員を務めている.年間400~500人程の相談を受けているが,そのうち約200人は新規の相談者である.HIV陽性者が自分の感染に気づく機会は,東京都内では自発的に受けたHIV抗体検査が3~4割,それ以外は一般の医療機関で実施されたHIV抗体検査だ.「新しく付き合いたい相手が見つかったので,相手に陰性の結果を伝えたいと思って」と検査を受けたら陽性だった人や,「最近,階段を上がる時に息切れするので,病院で調べてもらったら肺炎を起こしかけていた」という人など,様々なきっかけがある.私たちへの相談開始も,検査結果を聞いた直後が約半分を占めている.HIVは特別な人たちが感染しているのではない.予防なしの性行為の経験があれば,誰にとっても,その可能性はゼロではないのだ.
感染を知った後の医療の提供は,地域のエイズ拠点病院に紹介されることが多い.医療サービスは病院内で完結することが多いが,最近,院外処方を発行する拠点病院が見られており,地域で薬剤を受け取るHIV陽性者もいる.経験者に話を聞くと,問題なく薬を受け取れているという.地域の様々な医療や福祉サービスの受け入れが整い,利用するHIV陽性者が増えれば,より多くの市民にHIV陽性者が既に共に暮らしているリアリティが伝わるのではと期待する.
この10年でHIV陽性者が向き合う不安や困難さの質が大きく変化している.そこで本稿では,相談を受ける中で筆者が感じる,服薬においてHIV陽性者に支援サービスを提供する際に理解しておくと役に立つポイントをまとめた.
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