連載 医学ジャーナルで世界を読む・15[最終回]
理論と実践とライフワーク
坪野 吉孝
1
1東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野
pp.164-165
発行日 2004年3月1日
Published Date 2004/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100549
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現場に飛び込んで,問題に直接コミットする「実践」と,現場から距離を置いて,問題の意味を普遍的な文脈の中で考える「理論」.2つの志向が,自分の中でせめぎあっている.「理論」と「実践」は,矛盾しないのが理想だが,いまだに折り合いがつかない.
「実践」志向が強かった学生時代は,現場を見たくて,いろいろなところに出かけた.フィリピンにも2回行った.マルコス大統領の独裁政権に反対する民主化運動に携わる知人の手引きで,農村と漁村をまわり,輸出加工区の工場労働者を訪ねた.スービック米海軍基地に隣接した歓楽街では,米兵相手の売春婦に話を聞いた.翌日訪れた郊外のカトリック教会では,麻薬中毒の少年たちが共同で暮らしながら,リハビリに取り組んでいた.教会のある丘の上から,スービック湾にひろがる海軍基地が一望できた.米軍基地のかたちをした巨大な暴力と,麻薬中毒のかたちをした少年たちへの暴力.第三世界の軍事化がもたらす,むき出しの暴力の姿に,圧倒された.けれどもその後,1991年のピナツボ火山の噴火による被害で,米軍はスービックから撤退した.丘の上の教会に,今も少年たちがいるかどうかはわからない.
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