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外科医減少が叫ばれ,外科へのリクルートに力を入れる昨今,ある医学生にこう尋ねられました.「外科は,一人前になるのに何年かかりますか?」少し考えた後にこう返答をはじめました.「“一人前”という言葉は,正直一言では言い表せないですね.」と.社会的には,外科専門医の資格を取れば一人前とされるかもしれません.消化器外科専門医などサブスペシャリティを取得すれば,一人前の専門家として認められるかもしれません.でも外科医の観点では,それだけでは語り尽くせないと思います.難易度の高い術式や,緊急手術や稀な症例に遭遇した時,自らが先導し術式を組み立てて手術を完遂できるようになった時こそが,「一人前」なのかもしれません.あるいは,外科医それぞれが目指す術式や分野を自分の手技として体得した瞬間が,「一人前」になったと自信が持てる時かもしれません.結局のところ,「年数では測れないですね.私自身も今なお高みを目指して外科手術を探究しているので,まだまだ一人前ではないかも…….」そんな会話を,医学生と交わしました.
今号には,そうした「外科医の成長の時間軸」を映し出すような論文が多数掲載されています.たとえば柴崎先生の総説では,ロボット支援手術の過去と未来が描かれています.導入当初は適応範囲が限られたロボット支援手術が,今では多くの疾患・術式において標準的に適応されるほどになりました.その過程は,技術革新と外科臨床における努力が織りなす,成熟の時間だったと言えます.また,QOLを考慮したスリーブ状胃管の工夫や,conversion手術の低侵襲化,3Dメガネによる視覚負担軽減といった試みからは,患者術後QOLの向上や術者の持続可能性を見据えた視点が感じられます.稀少疾患や術式の創意工夫の報告からは,たゆまぬ外科医の探究心が滲みます.育児と研鑽を両立する若手医師の声,多職種による手術支援の現状は,外科医療現場における多様性を感じます.

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