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がんは現在では慢性疾患とされ,共生していくものと捉えられている.それを受けて,がんの診断から死に至るまでその人らしく生きていけるよう支援することが看護師に求められている.そのためには,がん患者の気持ちや考えを知るためのコミュニケーションが不可欠である.
共感的に寄り添い,傾聴しましょうとよく言われるが,Bad Newsをきいた直後や予想外の病状悪化に衝撃を受けている患者,怒りや不安が強い患者,自分の死を考える患者を前にすると,返答に悩んで言葉に詰まったり,患者の言葉をオウム返ししたり,会話をしているようにみえて実は看護師から一方的な説明や説得をしているだけということがよくある.
今回,看護師のコミュニケーションの特集を組むにあたっては,不安や怒りなどへの対処方法ではなく,看護師らしい看護師ならではのコミュニケーションの在りかたを伝えたいと考え,日本がん看護学会特別関心活動グループ(Japanese Society of Cancer Nursing Special Interest Group,以下SIG)のなかのがん精神看護メンバーに協力してもらうことにした.
このSIGでは,「精神看護はコミュニケーションから」をモットーに,患者ケアに欠かせないコミュニケーションの上達を目指して看護師同士で年に数回ロールプレイを用いた対話練習をしている.この練習では勝手に患者の思いを推察したり説明・説得することなく会話を通じて気持ちのつらさそのものを話し合えるようになること,傾聴だけでなく看護師の気持ちや考えもきちんと言葉で伝えることに重点を置いている.そして,最終的に看護師があまりストレスを感じないで患者と自然に会話ができるようになることを目指している.日ごろSIGで考えている患者と双方向性の自然な会話とはどういうことか,自然な会話が患者にどのように治療的にはたらくかということ,さらに自然な会話によって看護師も喜びややりがいが感じられるようになること,を読者のみなさまにお伝えできるように本誌を企画した.
本特集では,まず看護師のコミュニケーションの意義,良質なコミュニケーションがもたらす効果や留意点といったコミュニケーションの基本を理論編としてまとめてある.
次に,SIGメンバーに今までの臨床活動のなかで印象深い事例を提供してもらった.読者のみなさまにも似たような経験のある場面が多いことと思う.
そして,事例ごとにそのやり取りのスーパービジョンを付けた.事例とスーパービジョンを合わせて読んでいただくことで,この場面のこの会話にはそういう意味やケア効果があったのか,ここはもう少していねいに会話を重ねてもよいのだということなどがわかり,今度のコミュニケーションに役立つ,示唆に富むものになるよう編集した.読者のみなさまの日ごろの看護にお役に立てれば幸いである.
最後に,日本がん看護学会SIGがん精神看護の名称の使用や活動内容の公開を許可して下さった日本がん看護学会に深く感謝いたします.
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