- 文献概要
デコボコ道を歩いたら……といううたい出しで,デコボコ道は困ります,とむすぶうたをラヂオで朝毎にきいていると,その卒直な表現が本当にその困りかげんを言いあらわしていておかしくなります.今日のように,大ていの大通りは補装され,コンクリートかアスフアルト,そこまでいかなくても砂利位が敷かれるようになると,あまり感じませんが,私共の子供の頃には,どんな大通りでも,雨あがりの時,特に,雪のあと天気になつて,積つた雪のとけはじめたいわゆる雪どけ道は,泣きたいようで,子供心に「おしるこ道」といつて表現していました.あの時代だったら「雪どけはこまります」といううたが出来たに違いないと思います.併し雪どけという現象には,そんないやなことばでなし,もつと別の事実と深い意味が含まれていることを考えてみたいのです.
何月も何月も雪と氷に閉ざされている山奧の寒村では,屋根に積つた雪が少しづつ移動しはじめる頃,山になだれがおこりはじめる頃,「雪どけだ!」と覚りホツとする.はりつめた氷の下を,耳をつけてすましてきいてみると,チヨロチヨロと水の流れる音がきこえる.氷がとけはじめた.長い長い冬から解放されて,春が流れて来る前奏曲,村の人達はどんなに長い間じつと辛棒してこの声をきくのをまつた事でしよう.雪どけは春の約束,春の女神の杖にふれた部分から冷いものは消えていくのです.
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