想園
ガンバッテ
萩原 俊子
1
1旭川療育園
pp.74-75
発行日 1964年5月1日
Published Date 1964/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912249
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赤ちゃんが生まれました……。これはどこの家庭にとっても大きなよろこびです。はじめて笑いました。赤ちゃんは何と大きなよろこびをお母さんにもってきてくれたことでしょう。「ごらんなさい,笑ったわ」だんだん時がたちます。お母さんの顔に暗いかげがうかぶようになります。「もしや……。いいえ絶対。でも……」消しきれない不安な気持のままかけこんだ診察室でのあの一言「脳性小児マヒですナ」ワッと泣きふすお母さん。きっと死の宣告よりももっと残酷だったことでしょう。
午前2時。多くの子のお母さんは多分こんな経験に耐えておられるのだろうと思いながら,ひとりひとりのフトンをかけ直してやる。予備知識もなしに,ただナースであるだけでとびこんだ肢体不自由児施設のナース・ルームで,どうにか過ぎた2か月間を静かにふり返ってみることのできる安らぎにひたる余裕もでてきた。「センセ,抱いて」ノコノコひざの上に上ってきて小さな手をサッと胸にのばす。思わずはらいのけた私の顔をさも不思議そうにジッと見つめる二つの澄み切った瞳。ああこの子もお母さんを思い出しているなと,恥じらいながらも抱きしめてやる。
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