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黄綬褒章を拝受して
本吉 チイ
pp.14
発行日 1959年1月1日
Published Date 1959/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201604
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この度計らずも,黄綬褒章を賜りかしこくも両陛下に拝謁の光栄に浴させて戴きました事は,身に余る感激でございました.かえり見ますれば私が,この仕事につきましてから早30有余年の歳月は全く夢のように過ぎてしまいました.その間の想出のかずかず,或時は夕べに星を頂き,山坂山をこえて産家におもむき,生みの苦しみを慰め,生声を家族と共に喜こび,その重責を果して帰る家路は早暁の露一面という事も度々でありました.
ともあれ雨の日も風雪の夜も,生れいずる新しき命の育成と母体の保護というその一筋に責任と誇を以て働いて参りました.戦争たけなわの当時は,一片の衛生材料すら入手出来ない世相に於きましても,その困難を克服しつつ保健指導に心を注いで参りました.終戦後は日本の経済と人口問題はつよく国民の関心をもつ処となり,昭和23〜4年頃より家族計画の必要性はいよいよ重要視されて参りました.この時に当り私共助産婦は卒先して,その指導員となり,一見戦前とは全く相反しての業務状態とも言えるのでありますが,母子生命の健全なる育成と言う本来の使命から些かも相反する事なく,これが与えられた責務であり当然の事でありまして今日この光栄に浴します事は,夢にも予期しなかつたのでございます.今後は益々研鑚を重ぬ母子の健康増進と社会のために努力いたす覚悟を新にいたした次第でこざいます.
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