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【問題1】 解答:(3)涙滴赤血球
赤血球の一部がしっぽのように伸び,いかにも涙の滴のような外観を呈している.赤血球膜は脂質により内・外二重の分子層を形成しており,外層に多く含まれるホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)は流動性を増加させ膜を柔らかくする性質があるため赤血球は可塑性や変形能を有している.赤血球に一定期間外力が働くと細胞膜は塑性変形を来し,その形態変化は不可逆的となり原型に戻らなくなる.涙滴赤血球はこの性質に基づくものと考えられ,その形成機序は推論となるが,骨髄が線維化やなんらかの原因で障害を受け造血能が低下すると,脾臓や肝臓などで髄外造血が起こる.造血を引き受けた脾臓や肝臓は骨髄のように完全にその役目を果たすことができず,無効造血や造血臓器と末梢血液の仕切り(barrier)がしっかりとしていないので,有核赤血球や幼若顆粒球が末梢血液に漏れ出す(白赤芽球症).有核赤血球の核は変形能が悪いため,脾臓通過時に静脈洞内皮間げきにひっかかり,この間げきを介して洞に脱出した細胞質と髄索に留まる核により有核赤血球は亜鈴状に変形する.やがて細胞質がちぎれ細胞質は内皮細胞間げきでしっぽのような変形を受けたままで末梢血に出現する.このように涙滴赤血球のしっぽは脾臓での脱核時に生じた塑性変形によるものと考えられ,問題の図1のように赤芽球が同時に出現していることが多く,涙滴赤血球の形成機序を裏付けていると思われる.同様の変化は,ハインツ小体(Heinz body)が脾臓で摘除される場合にもみられる.
考えられる病態は,まず髄外造血が盛んな病態として骨髄線維症を疑い,次いで癌の骨髄転移やサラセミアまたはハインツ小体形成貧血として不安定ヘモグロビン症やグルコース6リン酸脱水素酵素欠損症などを考える.
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