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輸血検査の主な目的は輸血に伴う副作用を予防し,安全な輸血を実施することである.日本赤十字社医療情報部によって集計された副作用のうち,最も多いのは発熱,蕁麻疹,血圧低下など比較的軽度の非溶血性副作用で,集計件数の約80%を占めている.多くの場合,原因は解明されていない.一部は感作個体による,血液製剤中の白血球や血小板上の抗原(HLA, NA, HPA, ABHなど)に対する免疫反応であろうと推定される.感作状態の患者で長期反復して輸血が必要な患者には不適合輸血を避けることが必要なことかもしれない.赤血球抗原の検査に比べ,白血球や血小板の抗原の検査は普及しているとは言えない.同種抗原感作による血小板輸血不応は放置できない危険な状態であり,適合血小板の輸血が唯一の解決策と言える.感作状態の把握や適合血小板の選択のために行われる輸血検査は患者血清中の抗体検査,患者やドナーの抗原タイピング,交差適合試験などである.患者血清中の抗体を同定する場合,感度特異性とも優れた方法でなければ輸血不応の原因を解明できない症例がある.適合血の選択は,従来血清学的タイピングで行われてきたが最近はHLA,HPA,NAなどの多型が由来する遺伝子型を調べることが行われている.一方,副作用予防のため,白血球をできるだけ除去した血液製剤の輸血が有効であることが知られ,白血球除去フィルターが使用される.106個の白血球が同種抗原感作に必要であると言われているが,フィルターの有効性を確認するためには残存白血球の数を正確に計測する必要がある.免疫反応でなくとも,輸血前の保存条件によっては血液製剤中の白血球や血小板由来のサイトカインやケモカインが遊離し副作用の原因になっているかもしれない.非溶血性副作用に血漿成分の輸血がどのように関与しているか,解明された部分は非常に少ない.
溶血性副作用も少数ながら報告されている.単純なミスのほか,遺伝子検査によって解明されるような不適合輸血も含まれているようである.ABH抗原のような糖鎖型赤血球抗原については糖転移酵素をコードする遺伝子の多型が,Rh型のような蛋白抗原についても由来する遺伝子の多型がほぼ解明されているので血清学的検査よりも強力な解析手段となり得る.
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