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近年,医師の偏在と医療過疎化が大きな問題として取り上げられてきています.とりわけ,地方の医師不足は深刻です.マスコミ等では産科,救急,小児科などが主に注目されております.しかし実情は,これらの科のみならず,循環器外科も含めて外科一般,さらには内科も大学での研修や教室員の数が年ごとに減少してきていることから,今後に対して強い危機感を抱いています.むろん脳神経外科も同様であり,専門医が8,000人と公称されてはおりますが,はたして割合として,どの程度の医師が当直あるいは臨時手術を含め脳神経外科としての治療にアクティブに携わっているのかは不明です.聞くところによりますと,ある大学では教室員が少なく,皆と同じく教授も当直をこなしているとのことです.公称専門医数に比して,活動的な外科医としての脳神経外科専門医が少ないのかもしれません.このような状況では研修医や若手スタッフに時間外の勤務,雑用などがしわ寄せされ,ますます脳神経外科を敬遠する傾向が出てくるものと思います.医療過疎の解消や医師不足を補うために,医学部の定員を増員(20名位と聞いていますが)することや,早期臨床研修の見直しが始まるようですが,定員を各大学で1割程度増員することですべて解消できるのかは疑問です.最悪の場合は比較的楽な科に希望者が集中するのみに終わる可能性があります.
今月号の「扉」では武田利兵衛先生が「今どきの若者を考える」で示唆に富むお話をされています.いろいろと他にも問題はありますが,私たちには,脳卒中をはじめ種々の神経系の疾患で悩む多くの方々が救いの手を求めていること,さらには脳神経外科領域の研修や研究がやりがいのある魅力的な分野であることを,情熱をもって諸先輩が後輩に伝えていくというしごく単純なことを,時間をかけて行うしかできないのかもしれません.「今どきの若い者」はいつの時代においてもそういわれ続けてきていますが,やり方によっては熱く,医師としての使命に目覚める人達が少なからず存在すると信じております.一方,やりがいのある仕事を自覚するには精神論のみでは不十分かもしれません.場合によっては診療料による給与の格差や,厳しい修行に見合った地位の保障も必要となってくるでしょう.
今年も12月号と最後の出版ですが,脳疾患から脊髄まで幅広い論文が多数掲載されております.いかに脳神経外科が手術のみならず,その前後の治療管理にも全力投球をしているかは明らかです.私も含め,すべての脳神経外科医が今後もプライドと自信を持って日々の治療にあたっていきたいと念願しております.
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