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本号は,好本教授の『「富」と「健康」』という扉で始まっています.昨今は健康志向が強すぎて,PETなどで早期癌が見つかって命が助かったという話をよく聞きますが,心配したらキリがないので,私は通常の血液検査程度でそれ以上の検査は行っていません.以前会った95歳を超えてなお元気なお医者さんに「自分は検診すら受けていないが,自分で異常に気がつく.要はどれだけ自らの異常に早く気がつくことができるかだよ」と言われたことが妙に脳裏にこびりついています.山城先生らの「無症候性髄膜腫の術後における患者のQOL」もその意味で興味深く読みました.実際には,未破裂動脈瘤と思って手術してみると明らかに小出血が過去にあった症例や,逆に無症候性髄膜腫で手術してみると周囲組織とまったく癒着なくするすると摘出できる症例から,早く手術してよかったと思う症例もあり,無症候性といっても本人の感受性の問題ではないかと思ったりすることもあります.
長尾先生の「法人化4年後の大学病院の現状」も大変参考になる論文でした.ある会で,日本のサラリーマンは米国のサラリーマンの5倍の給料を貰っているが,勤務医は米国の5分の1しか給料を貰っていない,その理由は医療関係者がストをしなかったからだという話を聞きました.日本人は赤ひげ・医は仁術などという意識が強く,医者は仕事量に比べてかなり悪い待遇に甘んじているというのは本当で,医療に対する予算が非常に小額なのに,これだけの長寿社会を保っているのは医療関係者の稀に見る努力の賜物ではないかと思います.それなのに,医療ミスでも起こそうものなら犯罪者扱いされ,患者さんの家族などから攻撃を受けたりします.外科医が一生懸命手術をしたのにうまくいかない率がどのくらいかもっとはっきりさせたほうがよいのではないかと思うくらいです.マスコミに取り上げられるスーパードクターがインタビューなどで,彼らでさえどのくらい手術の失敗率があるか正直に出してくれれば,そうでない医師が合併症を出しても患者さんや家族の人も少しはわかってくれると思うのです.「スーパードクター」の中には成功率100%などと言う人もいて,素人がこれを聞けば本気にしてしまうでしょう.大半の医師にとってはますます働きにくい状況になってきているようです.そうは言っても同じ過ちは二度と繰り返さないように日夜文献や手術書やビデオを見て明日の手術に備えるのがわれわれ脳神経外科医です.その意味で本号では米川教授の力作,「Selective amygdalohippocampectomy」が掲載されており,今後の臨床に非常に参考になります.長年の経験に基づいたカラー図などの美しさに感嘆しました.亀山先生らの連載「てんかんの画像と病理」も参考になるものです.その他種々の力作が掲載されており,貴重な号となるものと思われます.
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