今月の臨床 遺伝子医療—現況と将来
悪性腫瘍の遺伝子診断,遺伝子治療
4.p53遺伝子を用いた癌の遺伝子治療
藤原 俊義
1
,
田中 紀章
1
1岡山大学大学院医歯学総合研究科腫瘍制御学講座
pp.922-927
発行日 2001年8月10日
Published Date 2001/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409904406
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
前癌病変から早期癌,進行癌へと至る過程で,癌遺伝子と癌抑制遺伝子の二つの遺伝子群の変異の段階的な蓄積が観察されている.癌細胞の悪性形質である分化増殖の異常や不死化に伴うアポトーシス抵抗性,転移や異常増殖を引き起こす血管新生能の獲得などが,これらの遺伝子変異による正常機能の喪失に直接起因していることが明らかになってきた.しかし,現在の遺伝子操作技術でこれらの複雑に関与する遺伝子変異をすべて修復することは不可能であり,癌細胞の完全な正常細胞化を目的とする遺伝子治療は困難と思われる.ただ,それぞれの分子の正常機能の解析から,悪性形質の発現における関与の度合は一律ではなく,特に重要な分子を標的とすることでその悪性度を制御することは可能であると推測される.
p53は,低酸素やDNA傷害などの生体ストレスに対して細胞周期停止やアポトーシス細胞死を誘導することでゲノムの安定性を維持しており,約50%のヒト悪性腫瘍でその機能喪失が認められている.p53は極めて半減期の短い核蛋白質であり,転写因子として多くの標的遺伝子の発現調節を行うことで多彩な生理機能を発揮する.正常なp53遺伝子を外来性に癌細胞に導入すると,増殖抑制やアポトーシスなどの抗腫瘍活性がみられることから,p53遺伝子を用いた癌の遺伝子治療が考案された.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.