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はじめに
脊椎外科は近年目覚ましい技術革新を遂げ,高難度手術でも比較的安全に行うことが可能となった.手術機器も同様に進化を続け,特に電気機器はルーチンワークにおいてわれわれの技術をサポートしてくれる.一方で手術機器特有の合併症,特に熱による組織損傷も存在し,機器の特性と発症の要因を知っておく必要がある.熱損傷は術野で確認することが難しいが,非常に参考になる基礎研究がある.
サージカルエアトーム,ドリル熱に関する研究では,Tamaiら1)はウサギ腰椎椎弓のドリル掘削時における神経根周囲の温度をワイヤー状の温度計で計測し,神経根損傷を組織学的に調査した.Diamond burr 60秒使用時,直下の神経根周囲の温度は36.1℃から51.4℃まで上昇し,組織学的神経根損傷は直後7.7%,3日後21.4%,7日後44%に認められた.ROC解析では48.9℃が神経損傷発生の閾値であったが,冷却水(8℃)散布で39℃まで温度は低下し,7日後の神経損傷を9.5%まで減少させることを示した.
バイポーラ熱に関する研究においてOhyamaら2)はウサギ神経根周囲をバイポーラで焼灼して周囲の温度を計測し,神経根の熱損傷を組織学的に調査した.その結果,神経から1mmの箇所を25W,4秒で焼灼すると,60.9℃まで上昇していた.さらに組織学的評価では術直後にsham群と有意差がなかった軸索損傷が,術後7日では47.8%と有意に増加していた.バイポーラ熱の対策として,水の滴下を行うことで42.7℃まで有意に低下させ,焼灼時バイポーラを神経の走行に垂直に挟むことで40.4℃まで低下させることを明らかにした.
これらは手術機器の発する熱によって神経根が損傷を受けることを組織学的に示した研究であるが,興味深いのはいずれのデータも直後より7日後のほうが有意に軸索損傷の頻度が高かったことである.これは手術機器による神経の熱損傷の症状は,術直後ではなく術後数日経ってから出てくる可能性を示唆するものである.そういえば,脊椎手術症例で術直後は下肢痛やしびれが改善していたのに,数日から1週ほど経ってから下肢の症状が新たに出るといった経験が少なからずある.重篤でない場合は検査もせずに血腫や神経根の牽引操作で一時的に症状が生じている可能性を説明して経過観察することもあったが,実は熱損傷の患者が含まれていたのかもしれない.そう考えると,術中の機器による熱がどの程度のものか検証する必要性を感じ,サーモセンサー(図1)を用いた簡単な検証実験を行った.
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