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本誌の編集委員を委嘱されてはじめての編集後記であり,いささか緊張して筆をとった。自分の書いた論文リストの原著の項をみると,邦文で書いたもののはじめの二つが本誌に掲載されている。今から約25年前のことである。当時から「脳と神経」の原著の印象は,あせりのみえる,神経質なタイプではなく,余裕をもった,いわば"楽しんで"仕事をしている様子が窺える論文が多かったように思う。仕事の性質上と,元来の怠慢が重なって,しばらく本誌に目を通すことが少ない時期があり,このたび編集委員として原著の投稿論文の査読をするようになって,やはり時代は変わったかなという印象をもった。率直に云うとテーマが小さく,それに応じて結果がわずかであるのに,結論が大きく,考察は結果に関連する事項にとどまらず総説のように広範な議論を展開するものが少なくない。
研究の内容や発表の様式は多岐にわたることが学問を進めていく上で重要なことはいうまでもないが,本誌が一つのスタイルをもつことは,広く,長く人々に読まれるために大切なことだと思う。わが国の研究費は決して充分とはいえないにしても,一刻を争って論文を発表しないと次のgrantがとれないほど不安定ではないし,その時々に時流に乗ったテーマでなければ研究費が得られない状況も,極端なかたちでは存在しない。着実な研究の上に立って,主張できる新しい知見が,誰の目にもわかる様な論文が欲しいと思う。そのためには,研究の目的と背景について述べるIntroductionを出来るだけ気を使って書くことが大切だろう。そして考察では,結果から得られる結論と,その意義,今後の課題について簡明に書くことが必要であろう。もし書いた論文を読み直してこれらの点が著者自身に満足のいくものでなければ,その最大の理由は研究が完成していないことにあると考えてみるとよいだろう。
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