「精神医学」への手紙
Letter—Adult Children概念の重要性について—精神科医の見落としてきたもの
橋本 光彦
1
1都南病院
pp.109
発行日 1998年1月15日
Published Date 1998/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904480
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「精神鑑定にかけることに異論はないが,はっきり言って,いまの日本の精神医学のレベルはきわめて低い。」 これは,カニバリズムを行い自ら精神鑑定を受けた佐川一政氏の,神戸連続小学生殺人犯少年Aに対してのコメントの一部である。精神医学が現実に起きている精神障害や犯罪に対して,適切な解答を持ちえなくなったのはいつからであろうか。
こういった状況の中で世間ではAdult Children(以下ACと略す)という言葉が広がりつつある。これは「安全な場所」として機能しない家族の中で育った人々のことで,精神科の治療対象にならない人々もいれば,摂食障害,不登校,さらに境界例や解離性障害をはじめ様々な精神障害の症状として現れてくる人々がいる。精神障害の原因を環境因に求める考え方は,実は精神医学の歴史を振り返れば,過去に何度か注目されては自然消滅していった。例えば分裂病を作る母親に始まり,いや父親だ,いや社会そのものが悪いのだとなり,これが反精神医学運動につながった。環境因で疾病を考える際の弱点は,たとえ因果関係の中に事実が含まれていたとしてもきちんと証明しえず,また事実でないものの除外が難しいということと患者の主体性の放棄にある。そして,操作的診断基準のDSMは,III版からこのような環境による「反応」という考え方を除外してしまったのである。
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