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はじめに
せん妄の薬物療法においては,健康保険上適応として認められている薬剤がほぼないと言ってよいわが国の現状の中で種々の薬剤が使用されている。それらの中には,古典的とも言えるhaloperidol3,6),最近広く使用されているquetiapine11),risperidone10)などの非定型抗精神病薬,セロトニン2受容体遮断作用を有する抗うつ薬であるtrazodone9),mianserin13),そしてベンゾジアゼピン系薬剤(以下,BZ)がある。これらの薬剤の選択については,せん妄の重症度とともに患者自身や医療スタッフの安全を脅かす行動につながるリスクを評価したうえで,まずは速やかな鎮静,場合によっては入眠を要するのかどうかを判断しなければならない14)。胃管や胃瘻なども含めて経口投与が可能であるのかどうか,患者が協力的かどうかなども重要な決定要因となる。
速やかな鎮静を要する場合にまず選択されるのはhaloperidolの経静脈投与と思われる3,6)。通常量では呼吸や循環への影響が小さいことから忍容性は高いものの,臨床現場では十分な効果が得られないことも実際にはしばしば経験する。その際にはBZであるlorazepamの併用が海外では推奨されているが1,2),わが国ではlorazepamの注射剤は使用できず,経静脈投与を行おうとすればflunitrazepamやmidazolamなどの併用投与が選択肢となる。これらの薬物はせん妄の病態の基礎にある意識障害を悪化させたり,脱抑制を引き起こす可能性もあり,単剤投与でせん妄に有効であるというエビデンスは得られていない4)。Lorazepamについてはhaloperidolとの併用でせん妄に有効であったという報告1,2)はあるが,flunitrazepamやmidazolamとhaloperidolとの併用に関する報告はなされていない。身体的に重症な患者に対するBZの経静脈投与は,呼吸抑制や血圧低下などの有害事象を引き起こすリスクが高く,慎重に投与しなければならない。またMidazolamの場合は健康保険上の制約があり,一般病棟では使用しにくい。
経口投与が可能なせん妄患者の場合でも,いわゆる睡眠剤がhaloperidolなどと併用されることはあると考えられ,実際の臨床現場では経口薬も含めて一定以上の割合でBZがせん妄の薬物治療に使用されていると推測される。にもかかわらず,これらの薬剤をせん妄患者に使用する場合の実践的な指針は,日本総合病院精神医学会によるせん妄治療指針14)などに限られている。今後非定型抗精神病薬の注射剤がわが国でも上市されてくると思われるが,速やかな鎮静効果という点でBZに取って替わるまでにはならないであろう。とすれば,せん妄患者の薬物療法においてBZをどのように使用していくべきなのかをより明確にしていく必要がある。そこで今回我々は,コンサルテーションリエゾン活動の現場で経験するせん妄患者へのBZの使用状況を調査し,その臨床的な位置づけについて検討した。
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